【洋書レビュー】『Know My Name: A Memoir』言葉が与える力を教えてくれる回顧録

 

1. 『Know My Name: A Memoir』by Chanel Miller

2. オーディオブックについて

配信日(Audible):2019/9/24

再生時間:15時間 24分

ナレーター:Chanel Miller (著者)

かなりゆっくりナレーションされている。1.4倍速で聴いた。15時間24分と長いが、倍速で聴くとそれほど長くない。

3. 本の概要

Chanel Miller (シャネル・ミラー)の回顧録である。彼女はEmily Doe (エミリー・ドー)として知られている。彼女は、Brock Turner (ブロック・ターナー)がスタンフォード大学で彼女をレイプした際の裁判で、数百万人を驚かせたインパクト ステートメントを発表した。彼女の影響力ある声明はバズフィードに投稿され、11百万人以上が4日間で閲覧し、世界中で翻訳された。彼女の物語は、被害者が直面する抑圧を明らかにし、加害者を保護する文化と不十分な刑事司法制度を訴えたのだ。これは、その事件のことについて書かれた本である。この本は、性的暴行についての考え方を変え、現代の名作としての地位を確立するであろう。

4. 評価 ★★★★★(5/5)

5. 感想

この事件のことは、インパクトステートメントが拡散されたときに知っていた。そのためこの本の存在を知った時に、読んでみたいと思っていたのだが、やっとオーディオブックで聴いてみた。というのも、レイプ事件というテーマが重いものなので、読むたいという気持ちになるまで時間がかかったのだ。

率直な感想…、すごい!!こんなに一気に聴いた本は久しぶりだ。

まず冒頭で「私はシャイで、ハーフチャイニーズである」と言っていたので、性格、人種ともに親近感が沸きもっと先を読んでみたいという気にさせてくれた。

聴いてみると、彼女のストーリーと考え、思いを言語化する素晴らしさにどんどん引き込まれしまった

レイプ被害にあったことだけについて書かれているだけではなく、レイプ後の生活の様子や裁判中の出来事についても書かれてある。

特に、学校に通うために道を歩いているときに、見知らぬ男性に頻繁に声をかけられてハラスメントを受けていた際のエピソードが印象的だった。なぜハラスメントのために女性が行動を変えないといけないのか?そして、Chanelが彼氏と一緒に歩いているときは誰も声をかけないというのも、なぜ男性にあるライン(バウンダリー)は女性には尊重されないのか?日々の「日中に道を歩いている」という本当なら何気ない行動なのに、女性であるだけでなぜこんなところにまで労力とお金、神経を使って毎日生活しなくてはいけないのか。

本には、事件後のスタンフォード大学とのやりとりも書かれていて、影響力のある施設の立ち位置や、彼らが担う役割についても考えさせられた。

それにしても、Brock (ブルック)は6ヶ月という刑期で、実質3ヶ月という短い刑期には強い怒りを覚える。Chanelが書いた素晴らしいインパクトステートメントのおかげで、この事件がアメリカ国内だけでなく全世界で注目され、メディアと大衆の目に晒されることになったのは、痛快である。自分の思いを文章にして書けるって、こんなにも強力なインパクトを与えることが出来るんだ

元々は、レイプ被害者の目線で書かれた回顧録で内容が気になるので読んでみたのだが、読んだ後では本と作者に対するイメージが全く違うものになった。事件の経緯も興味深いものだったのだが、彼女の鋭い洞察や文才が魅力的でいたるところで共感が出来るのだ。

書くことが得意というのも、そこでおこがましくなるのではなく、母がライターであったこと、その前の代の世代にの人にも感謝していて、謙遜して自分はPrivilegeがある (恵まれている)ということを言っているのも素晴らしい。なんてできた人なんだ!

この本は著者本人がナレーションしている。こういった著者本人朗読のオーディオブックの何がいいかって、怒っている箇所では力強く、感情的になっている箇所では涙声になっていて、著者の気持ちがありありと伝わってくるのだ。

特にこういう回顧録は、著者本人が読んでいるオーディオブックで聴くのがおすすめだ。

1人称なので話が分かりやすいので、英語学習をしている人でもすんなり頭に入ってくるだろう。

ちなみに、このオーディオブックの表紙がなかなかいい。初めは気づかなかったが、よくみると金継ぎになっているのだ。「壊れたもののを傷をなかったものにするのもではなくて、新しい命を吹き込む」というコンセプトがすごく合っていて、センスの良さが感じられる。


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5. 日本語版

『私の名前を知って』シャネル・ミラー、押野素子訳

 
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