【洋書レビュー】『Conversations with Friends』サリー・ルーニーの1作目は何回読んでもやっぱりいい!
1. 『Conversations with Friends』by Sally Rooney
2. オーディオブックについて
配信日(Audible):2022/6/1
再生時間:9時間
ナレーター:Aoife McMahon
アイリッシュ英語。1.2倍速で聴いた。聴きやすい声。
3. 本の概要
2017年に出版されたサリー・ルーニーのデビュー小説。Frances (フランシス)はライターを目指す大学生。親友であり元カノのBobbi (ボビー)と一緒に詩のパフォーマンスをしている時に、年上で写真家の女性Melissa (マリッサ)に出会い親しくなる。その後、彼女の夫であり俳優のNick (ニック)と不倫をするようになる。フランシス、ボビー、ニック、マリッサとの人間関係を描いている。
4. 評価 ★★★★★(5/5)
5. 感想
この本を読んだのはこれで2回目。去年、TVドラマ化されたシリーズも見たので何回も読んでいる気がするが、実は2回しか読んでいなかったんだ。
9月にサリー・ルーニーの新刊が発売されるので、その前に彼女の本を全部もう一回読み直すことにした。
やっぱり何回読んでも好きだな、この本。
この本の一番の魅力は登場人物がみんないろんな意味でかっこいいのだ。欠点も含めて。
何と言ってもBobbi (ボビー)が魅力的。この本はFrances (フランシス)の一人称で書かれているのだが、フランシスがなぜボビーに惹かれているのかがよく分かる。ボビーのスレンダーな外見、社交的で知的、自分の価値観を持っていてそれを堂々と主張するところ。そして、フランシスとは高校の時に会ったと言及されていたので、個人的には高校生の頃からゲイであることをオープンにしているところもかっこいいなと思った。
私はこの本の一番の衝撃だった点が、フランシスとボビーの政治観がはっきりしていること。私が21歳の時なんて政治的イデオロギーについて考えたりしたことはなかったがアイルランドの大学生はみんなこうなのか?!とびっくりしてしまった。しかも、自分達より年上の30代の友人のMelissa (マリッサ)やNick (ニック)、そして同年代との友人との集まりでこんな会話をするの?すごくない?!と感心してしまった。
例えば、フランシスがニックとの会話の様子を下記のように描いている。
I explained I wanted to destroy capitalism. I considered masculinity personally oppressive. Nick told me basically he is Marxist and he didn’t want me to judge him for owning a house.
(私は資本主義を崩したいと説明した。個人的に男らしさは抑圧的だと感じる。ニックは基本的に彼がマルキシストで、家を所有していることについて私にジャッジして欲しくないと言った。)
ボビーも、大学でフェミニストソサエティに参加していて、そのグループがイラク侵攻をサポートした人をゲストスピーカーとして迎えたからフェミニストソサエティを脱退したとか言っていたし。
若いのにこんなに自分の主義を主張できるってかっこよくない!?
日本だと資本主義という常識がが当たり前になっていて、共産主義とかマルクス主義を支持しているとか言うと、え?大丈夫?という風になってしまいそうだけど、小説を読むことによってヨーロッパのミレニアムの若者たちの考えがここまで違う事かよく分かる。興味深いし、もっと他の国のミレニアムのイデオロギーについて知りたいと言う気にさせてくれる。そういえば、カナダ在住の私の数少ない友人カップルに、コミュニストがいる。以前、池上彰の本を読んでいたときに「日本は最も成功した社会主義国」と皮肉で言われているというようなことが書いてあった気がするが、すでに社会主義国のような現状だから、逆に現在のいわゆる”資本主義”の日本を批判する人はいないのかもしれない。
ところで、著者のSally Rooney (サリー・ルーニー)はニックと同じくMarxist (マルキシスト)らしい。あと、彼女は大学在学中にディベーターだったとか。2013のヨーロッパチャンピョンシップでトップディベーターになっているともWikipediaには書いてあった。本の中のキャラクターの政治観や、ボビーが議論を展開するシーンなど、ところどころにサリー・ルーニーのテイストがうかがえるなと感じた。
ところで、この本のメインキャラクターの1人のNick (ニック)。受け身な性格で、とことん優しいのが魅力的なのだ!
Melissa (マリッサ)から言われたことはなんでもしてあげることがいい。例えば細かいところだと、マリッサにお使いを頼まれて買い物リストを慎重に選んだり。フランシスとのやりとりで、彼女を傷つけるようなことは言わないし。一昔前の、男らしさ全くないのだ。例えば、暴力、攻撃的、感情の抑制、支配的、フェミニストに同調しない、ホモフォビアなどといういわゆる”有害な男らしさ”とはかけ離れているのだ。
あとほかのキャラクターで言えば、ニックの妻Melissa (マリッサ)もかっこいい。本人も浮気をした過去があるので理解があるせいか、フランシスとニックが不倫をしていると分かった時も、フランシスを交えて関係をキープしようという結論に至った試みがすごい。なんて現代的なんだ!!
唯一それほど魅力的でないキャラクターは、この本の語り手のフランシス。ニックやボビーにはっきりを思っていることを口にしないあたりが少しもどかしくも感じるが、その辺がリアルでまたいい。
この本、フランシスとニックの恋愛の様子も面白いが、本のタイトルの『Conversations with Friends』というだけあって、彼らの何気ない会話が面白い。
そういえば、この話はフランシスとニックの不倫の様子がメインで描かれているのだが、その恋愛模様も楽しめる。
最後に、この本はFrances (フランシス)の1人称で書かれているので内容が理解しやすい。フランシスの気持ちや想いがリアルに伝わってくる。
英語学習者や、洋書が苦手な人にもおすすめだ。日本語訳も出ているようだが、是非原本を読んで欲しいものだ。
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