【洋書レビュー】『Normal People』サリー・ルーニーのベストセラー!TVドラマ化版もおすすめ

 
 

1. 『Normal People』by Sally Rooney

2. オーディオブックについて

配信日(Audible):2019/4/16

再生時間:7時間34分

ナレーター:Aoife McMahon

アイリッシュ英語。1.2倍速で聴いた。聴きやすい声。

3. 本の概要

コネルとマリアンはアイルランドの同じ小さな町で育ち、学校では人気者のConnell (コネル)と孤独なMarianne (マリアン)という対照的な存在だった。コネルの母がマリアンの家で働いていたのをきっかけに二人の関係が始まり、やがてダブリンのトリニティカレッジで再会する。大学生活を通じて、お互いに惹かれ合いながらも別の道を模索する二人は、自分たちの関係がどこまで続くのかを試される。『Normal People』は、離れようとしても引き寄せられる二人の魅力と愛を描いた物語。

4. 評価 ★★★★★(5/5)

5. 感想

去年から洋書を読むようになったのだが、そのきっかけの本がこの本だ。こんなに小説が面白いとは、大学時代にJ. D. Salinger (J.D.サリンジャー)の『The Catcher in the Rye (ライ麦畑でつかまえて)』を読んだ時以来だ。 初めてこの本をオンラインで目にした時は、『Normal People』というタイトルだけあって、自己啓発か何かの本だと思っていた。しかし聴いてみるとなんと小説だったのだ。聴きやすい上に、思った以上に内容がよく理解できたので、すっかりストーリーに引き込まれてしまった。

この本をきっかけにすっかりSally Rooney (サリー・ルーニー)のファンになってしまった。

特にドラマチックな出来事が起きるわけでもなく、高校時代から大学時代にかけてのConnell (コネル)とMarianne (マリアン)の二人の関係を描いているのだが、不思議に面白い。まさに、『The Catcher in the Rye』を読んでいる感覚。この本は『The Catcher in the Rye』のように1人称で書かれている訳ではないのだが、コネルとマリアンそれぞれの気持ちが描かれているので、彼らの心理や気持ちが分かるのだ。

まず何がいいって、メインキャラクターのマリアン。正直で自分のことを分かっているのが魅力的でいい!コネルに”I like you.”と自分の気持ちを率直に言ったり。考えていることも正論で、納得できる。

特に彼女がかっこいいと思った印象的なシーンがある。マリアンが高校で授業中に窓の外を見つめていたら、歴史の先生に注意された時のことが下記のように書いてある。

She was not even allowed to move her eyes where she wanted. Even her eye movement is under the jurisdiction of school rules.

(彼女の目さえも自由に動かすことが許されないなんて。彼女の目の動きさえも学校の規則の管轄下におかれている。)

そして、マリアンが先生に放った言葉。

Don’t dilute yourself. I have nothing to learn from you.

(自惚れないでくれますか。あなたから学ぶものは何もないです。)

マリアンは友達がいなく、いわゆる周りとは違っていて”Normal People”ではない為にクラスメートから嫌われている。でも、こんなにはっきりを先生に物を言えるのってかっこよくないか?私たったら、こんな子がクラスにいたら、是非友達になりたいと思うが。

高校では決まった制服を毎朝着ないといけないし、1日中同じ建物にいて、それでいて目の動きも制限されるなんて、とマリアンの不満が描かれている。その理不尽さ、痛いほど分かる。私もはるか昔、高校時代に髪を染めたり、ピアスをしたりして、先生に注意されたりすることがよくあったが、当時その校則について疑問を持つことがよくあった。なので、マリアンの気持ちがよく分かる。ただ、マリアンは頭が良くて成績もいいことが、私との大きな違いだが…..。成績がいいと、あなたから学ぶものは何もないとという発言に尚更説得力があって痛快なシーンだった。

一方で、コネルの言動に少しイライラさせられた。まず、Debs (デブス)というアメリカのプロムのようなイベントにマリアンを誘わずRahel (レイチェル)を誘ったところ。そして、夏休みに実はお金がなくてアパート代を払えないので、マリアンの家に滞在させてもらいたいと自分なりに考えていたが、それを上手く伝えることが出来ず、別れるきっかけになってしまったこと。最後の最後で、ニューヨークでのライティングプログラムに応募していることをマリアンに伝えていなかったこと。友人のSadie (セイディ)には伝えていたのに。

高校生という多感な時期に、イケてるグループに所属したいという思いや、周りと合わせること、嫌われたくないという思いは分かるのだが、マリアンと関係を持っていながら、世間体のためにそれをするなんて。

コネルもマリアンのようにもっと周りを気にせず正直になれば、二人の関係はもっと上手くいったと思う。

あとこの本で面白いと思った箇所がある。私はフェミニストなので、そういったテーマの話題に敏感なのかもしれないが、大学の友人Peggy (ペギー)とマリアン、コネルとの会話で印象的なシーンがあった。Open relationship (オープンリレーションシップ)の話になった時に、ペギーが”I want to try open relationship”といった会話の件から、マリアンの発言が下記の通り。

I mean, when you look at the lives man are really living, it’s sad. Marianne says, they controlled the whole social system and this is the best they come up for themselves. They are not even having fun.

「というか、実際に男性たちが送っている生活を見ると、悲しいよね」とマリアン。「彼らは社会の全体を支配しているのに、自分たちのために作り出せる最良のものがこれだよ。彼らは楽しんでさえいないし」

ほんとその通り!思っていることを言語化してくれて、スッキリする感覚。笑える。Patriarchy (父権社会)な現実社会を、皮肉を込めて言っていて笑ってしまった。

この本で他に好きなキャラクターは、Connell (コネル)の母親のLorraine (ロレイン)!コネルがDebs (デブス)にマリアンを誘わなかったと知った時の反応とか、モラルがあっていい。シングルマザーで、最後にあなたを産んだことについて後悔してないよ、とか最後にコネルに言った時にウルっとなってしまった。

コネルとの関係の後に、マリアンがSM嗜好になるのが理解に苦しんだ。ただ、最近『Couples Therapy (カップルズ・セラピー)』というTVドキュメンタリーシリーズを見ていて、赤ちゃん時代を含めて、子供時代にどう育ったとか家族関係が、現在の親密な人間関係に大きな影響をもたらすという事が分かった。

父親からの暴力、兄と母親からの扱われ方が、マリアンの親密な人間関係に滲み出ていて、Submissiveになっているのかもしれないと思った。この辺はもっと深掘りして誰かとディスカッションしてみたいな。

ところで、冒頭にJ.D.サリンジャーについて言及したが、どうやらサリー・ルーニーは“J.D. Salinger of the Snapchat generation (スナップチャット時代のJDサリンジャー)”と呼ばれているみたいだ。

自分なりにどこが共通点があるのかを少し考えてみた。

まず、メインキャラクターがすごく正直でその思いが読者に共感できる、ということではないかと思った。例えば、『The Catcher in the Rye』の主人公のHolden (ホールデン)は、周りの大人が”Phoney (いんちき)”であると思っていて、それを批判している。マリアンも同じだ。マリアンも、高校時代のコネルや同級生はまわりに溶け込もうと”Phoney (いんちき)”になっていると感じている気がした。でも、マリアンはPhoneyにならずに我が道を貫いている。大学に入っても、マリアンの彼氏や友人のPeggyについても、そんな印象を受ける。

『The Catcher in the Rye』を読んだのは何十年も前なので、これを機会にまた読み直してみようと思う。

ストーリー展開よりも、キャラクターの性格や心理に興味がある人や、J. D. Salinger (J.D.サリンジャー)の本が好きな人におすすめな本だ。

英語も難しくないので是非読んで欲しい。


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6. 日本語版

『ノーマル・ピープル』サリー ルーニー (著), 山崎 まどか (翻訳)

7. TVシリーズ

ノーマル・ピープル (字幕版) (2020)

このドラマをきっかけに、Paul Mescal (ポール・マスカル)とDaisy Edgar-Jones (デイジー・エドガージョーンズ)は一躍有名に。ドラマ版もヒットして人気になったので、こちらもおすすめ。

ただ、キャラクターのイメージが頭から離れなくなってしまうので、先に本を読むことをお勧めする。

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