驚きの実話!Netflix『私のトナカイちゃん』がいろんな意味で面白すぎる。
先日、Netflixのドラマ『私のトナカイちゃん (Baby Reindeer)』を見た。
このドラマは実話を元にしたストーリーで、主演のRichard Gadd (リチャード・ガッド)が本人の役Donny (ドニー)を演じている。
1話目を見た瞬間から面白すぎて、ビンジ・ウォッチング (Binge-Watching / イッキ見)してしまった。
面白いといっても笑えるだけではなく、とてつもなく興味をそそられる内容なのだ。
早速下記にあらすじと感想を載せていく。
ネタバレが含まれるので、まだドラマを見ていない人はあらすじ以降は読まないようにお願いします。
1. あらすじ
スコットランドのコメディアンであるRichard Gadd (リチャード・ガッド)によって書かれ、制作されたドラマ。彼は自分自身の役Donny Dunn (ドニー・ダン)を演じている。このシリーズはドニーが女性ストーカーMartha (マーサ)との歪んだ関係、そしてそれが彼に与える影響を描いている。最終的にドニーは、深い闇に埋もれたトラウマと向き合うことを余儀なくされる。
2. 感想 (ネタバレ注意)
マーサ (Martha)の異常性
冒頭にも書いたように、1話目を見た瞬間からこのドラマに釘付けになってしまった。
恐ろしくて面白い!
何が面白いかってこれ、実話を元にしたドラマだからなおさら面白いのだ。
まず最初にハラハラしたシーン。ドニーとマーサがコーヒーを飲みにカフェに行き、その帰りにドニーがマーサの家までこっそり追う場面。
ドニーがマーサの家の中を見ている時は、怖すぎてヒーっ😱となってしまった。これ、殺人とかスリラーの話でもないのに、なんでこんなに怖いんだ!?まさにホラー映画を見ているみたいなドキドキ感があった。
そして、面白く再現されている異常性の1つに、マーサがドニーに送りつけてくるメッセージがある。送りつけてくる半端ないメールの数はもちろんだが、そこに必ず書かれているのが、”Sent from my iPhone”。
マーサはiPhoneを所有している訳ではないのに、毎回手打ちでメッセージの最後に書いているのだ。そして、たまにタイポが見られるのが笑える。”Sent from iPhon” とスペルミスがあったり、しまいには”iPhone”とだけ書かれてあったり。
また、マーサの家の汚さが半端ない。家の汚さからも、マーサの精神状態がうかがえる。
ゴミ屋敷の人を取材したテレビ番組がたまにあるが、こういう人は”家の片付けが出来ないだらしない人”ではなく、マーサのようにどこか精神を病んでしまっている人なのだろう。
マーサのメンタルについて気になったので色々調べてみると、YouTubeでマーサの精神状態を解説してるセラピストを見つけた。
その人によると、マーサには少なくとも3つの精神病の症状が見られるとのこと。
エロトマニア→妄想性障害の1つで、相手が自分に愛情を抱いているという妄信を抱いてる状態。
マーサはドニーが自分 (マーサ)のことを好きだと勘違いしているので、この症状はぴったり当てはまる。
バイポーラー(双極性障害)→この症状の1つに、気分が高まったり落ち込んだり、躁状態とうつ状態を繰り返すことが挙げられるらしい。
マーサがドニーの働くパブを訪れて、ノンストップでしゃべっている様子や、異常な数のメールを送りつけてくる時は、気分が高まっている時らしい。そして今度は一転して、バス停で悲しげに座っている状態が続く。これは鬱の状態とのこと。確かに感情の浮き沈みが激しく、この症状に当てはまっている!
ボーダーライン・パーソナリティ・ディスオーダー (境界性パーソナリティ障害)→この症状の1つに、気分や感情がめまぐるしく変わり、周囲の人々がついてこられない、というのがあるとのこと。
大笑いしていたと思ったら、突然怒り出したり、気分や感情がの起伏が激しいのはこの障害の1つとのこと。これもマーサに大きく当てはまる。
このように、ドラマの中でストーカーマーサのさまざまな精神状態を再現している。この人って誰だろう?過去に何があったのだろう?家族はいるのかな?と、マーサの異常性は怖いのだが、気にならずにはいられないのだ。
マーサのような精神病を患っている人をどう社会が手助けするかという事も、このドラマは考えさせてくれる。
ドニー (Donny) のトラウマと複雑な心理
普通のストーカーの物語だと、ストーカーがいて被害者がいるという構造だが、これはもっと奥深い。
被害者のドニーが大きなトラウマを抱えていて、そのためにストーリーをもっと複雑にさせているのだ。
最初のエピソードを見ただけれは分からないが、4話目を見ると、マーサが初めてパブに来た時のドニーの状況やメンタル状態がよく分かる。
グルーミングによって薬物乱用を迫られレイプ被害に遭い、ライターとしての希望も遠のき、自尊心がメタメタに折れている時にマーサが現れたのだ。
自分の求めている男性像を描いてくれ、ドニーを褒めてくれるマーサ。マーサの言葉がぼろぼろになったドニーの心に刺さってしまうのだった。
普通なら、マーサのようなストーカーがいたら、被害者はすぐに警察に報告するだろう。
警察に通報するまでに6ヶ月もかかったのは、ドニーのトラウマとそれによる複雑なメンタル状態が関係していて、人間の心理の複雑さを再現していて興味深かった。
セクシャリティの混乱
このドラマでは、ドニーが男性にレイプされてから、男性に興味をもっていく様子が描かれている。
私の好きなポッドキャストで以前、元FBIのプロファイラーが語っていたことがある。「少年が大人の男性から性被害にあったりすると、その後”自分はゲイなのではないか”といったようにセクシャリティについて混乱することがある」というのを聞いたことがある。
ドニーもそうなのかな?それともレイプされたということをきっかけに自分のセクシャリティについてもっと考える機会があり、バイセクシャル/ゲイであることに気づいたのか?人間って面白いなと思わせてくれるストーリーだった。まあ、実際のところストレートでもゲイでもバイでもどちらでもいいのだが。
また、レイプ被害後、ドニーが混乱しデートに行きまくったり、男性と立て続けに関係を持ったりする様子がありありと描かれていて、こんなプライベートなことを、Netflixという巨大なプラットフォームで公開するなんて!と、驚かずにはいられないのだった。
Martha役の女優の演技
このドラマの他の魅力は、マーサ役の女優Jessica Gunning (ジェシカ・ガニング)の演技が素晴らしいことが挙げられる。
感傷的になっていたと思ったら突然声を荒げて怒鳴ったり、感情の起伏の演技が上手い!
Jessica Gunningの演技は今までに見たことがなかったが、こんな素晴らしい演技だと、今後も他のドラマで目にすること間違いなしだろう。
ちなみに、リチャード・ガッドのインタビューを見ていたのだが、ジェシカ・ガニングの演技に圧倒されて、思わず自分のセリフを忘れてしまう事があった、というエピソードと語っていた。
実際に起きた事を伝える勇気
このドラマのすごいところは、リチャード・ガッドの身に起きた実話に基づいて作られたという事だ。
コメディアンとしての冴えない時代があった事、トランスジェンダーの人と付き合っていたこと、性被害にあったことなどをこのドラマを通じて赤裸々に伝えている。
これはすごく勇気のいることだ。上記にも書いたが、しかもNetflixという巨大なプラットフォームでだ。全世界の人が彼のことについて知ることになるのだ。
特に男性が男性にレイプされたというのは、なかなか簡単に言える事ではない。
私は実際に起きた犯罪を元にした、”トゥルークライム”というジャンルのドラマやドキュメンタリーが好きなのだが、女性がレイプ被害にあった時はほとんどが警察に通報しないそう。男性がレイプされたとなるとさらに通報率が下がるらしい。
Darrien (ダリエン)の家に呼ばれてグルーミングされているシーンは、もう次に何が起きるか予測が出来てしまい、マイケル・ジャクソンの性犯罪を取り扱ったドキュメンタリーの『Leaving Neverland』(2019) を思い出した。
ドニーのように、20代の人ですらグルーミングされ性被害に合ってしまうくらいだから、子供をグルーミングするのはいかに簡単なのかと思わされたエピソードだった。
それにしても、事実を包み隠さず公開したリチャード・ガッド、素晴らしい。
このドラマが人気があり高評価を受けている一番の理由はここにあるのではないか、と個人的に感じている。
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3.おわりに
男性の性被害というなかなか声を上げるのが難しいテーマをこのドラマでは扱っている。
テーマが重いだけに暗い話になりがちだが、さすがクリエイターのリチャード・ガッド、コメディアンなだけあって、いたるところにコメディ要素が入っていて笑ってしまうのが、このドラマが洗練されている理由の1つだと思う。
コメディ、スリラー、サスペンス、トゥルークライム、ロマンス、人間ドラマなど、いろんな要素が詰まっていてる。そしてセクシャリティ、性被害、ストーカー、メンタルヘルスなど様々なテーマが描かれていて、いろんな観点から楽しめた作品だった。
ただ1つ気になったのが、精神疾患を抱えている女性マーサが刑務所送りになったのに、ドニーを犯した男のダリエンが野放しになっている辺りが、この社会の構図に矛盾を感じずにはいられなかった。
マーサの犯罪を擁護しているのではなく、マーサがまず先に行く場所は刑務所ではなく、病院なのでは?そして、ダリエンは卑劣な犯罪を犯したのに、罰せられない。お金とステータスのある男は罪を逃れることが出来るというありふれた現実が、なんとも悲しい。
こんなにいろいろ考えさせてくれるドラマは久しぶりだった。イギリス英語、スコティッシュ英語、舞台がロンドン、エジンバラなのも魅力的だ。面白いので、是非たくさんの人に見て欲しい。