【洋書レビュー】Netflixの『American Nightmare』を観たなら必読!事件の全貌が分かる『Victim F』
1. 『Victim F: From Crime Victims to Suspects to Survivors』by Denise Huskins, Aaron Quinn, Nicole Weisensee Egan
2. オーディオブックについて
配信日(Audible):2021/6/8
再生時間:14時間 15分
ナレーター:Chanel Miller (著者)
ゆっくりなナレーションなので、1.4倍速くらいで聴いた。14時間以上長いが、倍速で聴くと割と早く聴き終わる。
3. 本の概要
2015年3月、デニース・ハスキンスとアーロン・クインは拉致と冤罪という悪夢に直面した。武装した男たちに襲われた後、デニースは拉致され、アーロンは警察に通報するも、彼女の殺人容疑をかけられる。デニースが無事解放された後も、警察は事件を自作自演と決めつけた。『Victim F』では、2人がこの恐怖と偏見に立ち向かいながら愛と信念で困難を乗り越えた体験が語られ、性暴力被害者や司法制度の問題に光を当てている。
4. 評価 ★★★★★(5/5)
5. 感想:ドキュメンタリーでは分からない真実
数ヶ月前、Netflixでトゥルー・クライムのドキュメンタリーシリーズ『American Nightmare (アメリカン・ナイトメア)』を観た。このシリーズでは、衝撃的な実話を基にした事件が描かれており、引き込まれる内容だった。
実はこの事件について、以前から知っていた。2021年に私が毎週聴いているお気に入りのポッドキャスト『Real Crime Profile』で取り上げられていたからです。(関連エピソード: #317、#318、#320、#321、#322、#490)ドキュメンタリーを観る前から概要は分かっていたものの、視聴後に「なぜ?」と疑問に思う部分がいくつか浮かび上がり、より深く知りたくなりました。そこで聴き始めたのが、事件の詳細が記されたオーディオブック『Victim F』である。
聴きやすく、引き込まれるストーリーテリング
『Victim F』をオーディオブックで聴いてみたところ、その分かりやすさと事件の細部に至る描写に圧倒されてしまった。あまりに引き込まれ、6日で聴き終えてしまったほどだ。この本を通じて、ポッドキャストやドキュメンタリーだけでは分からなかった事実が明らかになり、視点が大きく広がった。
本で明かされた新たな真実
たとえば、ドキュメンタリーでデニースが解放された直後の監視カメラ映像に映る、荷物を持った姿に「不自然だな」と感じた方もいるのではないか。どこか泊まりから帰ってきたかのような印象だった。実は、デニースが拉致される際に荷物を持って行くよう指示されていたことが本書ではしっかりと説明されている。また、犯行グループが単独犯ではなく複数犯だった理由や、その背景についても詳細に語られており、デニースとアーロンの説得力が増す。
さらに、デニースのパートナーであるアーロンの元彼女についての記述も興味深いものだった。元彼女がアーロンと付き合っている時に2年間浮気していたことや、FBIや警察官など権力やステータスのある男性に惹かれる傾向があったことが描かれいる。本当に狙われていた可能性があるのはアーロンの元彼女で、犯人は権力のあるFBIや警察の彼女をも、コントロールする事が出来るという挑発的なことを計画していたのかもしれないという可能性も伺える。
女性の直感と、社会に根付くミソジニー
本の中で印象的だったのは、デニースが解放された後のVallejo Police Department(ヴァレーホ市警察)のMat Mustard (マット・マスタード)刑事とのやりとりについての記述だ。本来、被害者のデニースの味方であり守ってくれるはずの存在のマスタード刑事とのインタビューで、犯人との共通点を感じたとデニースは語っている。犯人がまるで「脚本をなぞるように」、デニースとの絆を作ろうとする様子とマスタード刑事が重なったとデニースが感じた場面。女性の直感の鋭さを感じると同時に、背筋が凍るような場面だった。
興味深いことに、このドキュメンタリーを一緒に観た私のパートナーや友人たちは、最初はドキュメンタリーを見た時に「デニースが怪しいと思った」と口を揃えていた。これは、性被害を受けた女性に対する社会の偏見やミソジニーが浮き彫りになった瞬間だった。本書を通じて痛感したのは、被害者を疑うことの危険性と、私たちがいかにその偏見に対抗していくべきかということだ。
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6. 関連ポッドキャスト紹介
Real Crime Profile (リアル・クライム・プロファイル)
Jim Clemente(ジム・クレメンテ)(元FBIプロファイラー)、Laura Richards(ローラ・リチャーズ)(犯罪行動分析家、元スコットランドヤード)およびLisa Zambetti(リサ・ザンベッティ)(CBSの「クリミナル・マインド」のキャスティングディレクター)の3人がホストしているポッドキャスト。元FBIのプロファイラーと犯罪行動分析家がホストなだけあって、犯罪者の分析が詳細に解説されていてかなり面白い!個人的に犯罪系で毎週配信されるポッドキャストの中で一番好きなポッドキャスト。2023年12月時点で480以上のエピソードが配信されてあるが、面白すぎて前に遡ってほどんどのエピソードを聴いてしまった。毎週水曜日に配信されるのをいつも楽しみにしている一押しのポッドキャスト。2024年の途中からホストが変わって、Jim Clemente(ジム・クレメンテ)とKathy Canning Mello (キャシー・キャニング・メロー)の2人になっている。
この事件の関連エピソードは#317、#318、#320、#321、#322、#490
7. おわりに
Netflixの『American Nightmare』を観て衝撃を受けた方には、ぜひ『Victim F』を読んでみてほしい。この本は、事件の全貌を深く知るだけでなく、現代社会の抱える問題に目を向けさせてくれる一冊だ。本来は味方であるはずの警察に疑われるという悪夢のような状況、他の事件にはない要素でそこから学ぶ事がたくさんある。また、本を通じて知る「真実」は、ドキュメンタリーやポッドキャストを超えるインパクトがある。被害者の声に耳を傾け、まずは女性を信じる事。それが、この本から得られる最大の教訓ではないだろうか。